「恵庭OL殺人事件」伊東秀子著より
著作では容疑者の大越美奈子さんは仮名で大妻になっている。千歳署の常軌を逸する厳しい取調べに大妻の恐怖はつのる。
「四月二十一日の取調べ状況」
(大妻の陳述書より)
気分の悪さと恐怖で、怖くて、怖くて、具合が悪くて、その場にいるのが耐えられなかった。
午後6時頃、「帰ります」と言って鞄を持って立とうとした。ふらついて立てなかった。
「帰りますだと?何ふざけたこと言ってるのよ。自分から来ておいて何もしゃべんないで帰れると思うなよ。」
「今日は帰さないからな。」
机に腰掛けて通り道を塞がれた。今日は帰さないと言われた。伊東先生も出張でいない。どうしていいのか分からない。私は鞄を膝に置いたままだった。
「鞄を下に置け。鞄、下に置きなさい。」
怒鳴る。怖くて身体が動かない。私の上着のポケットに入っていた携帯電話が鳴った。自分の電話だと気づかず、出るのに間に合わなかった。
「何でお前が電話持ってるのよ。」
「誰からよ。」電話は二~三回来た。
「誰からよ。誰から電話来てるのよ。出たら承知しないからな。」
「何もしゃべんないくせに、電話に出てみろよ。ただじゃおかないからな。」
「電源切れ!」
「誰の電話だ。それ誰の電話よ。」
と怒鳴り続ける。そうだ。伊東先生は「何かあったら直ぐ電話をかけてきなさい」、そう言ってくれていた。でも来た電話も出るなと言われ、電源も切れと言われた。気分が悪い。もう耐えられなかった。
息苦しくて限界だった。何とかドアの所まで行った。刑事がドアの前に立ってドアを塞がれた。私はドアを開けなきゃと思い、ドアの取っ手に手を伸ばした。刑事は余計にドアに張り付いた。私が右から手を伸ばせば右に動き、私が左に動いて手を伸ばせば刑事も左に動く。私は壁に寄り掛かって立っているのがやっとだった。ドアが開いて女の刑事さんが入ってきた。
「まだ聞きたいことがあるから席に戻って。」
前を塞がれ、無理やり戻そうとする。私は壁にしがみつき、必死で抵抗した。その後、意識を失って倒れたらしい。
次の動画は、札幌地裁が大越美奈子さんの第二次再審請求を退けたことを報じるニュースである。伊東秀子弁護士が無念の思いと心境を語る。https://www.youtube.com/watch?v=J0ZFNOMgbRU
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