「恵庭OL殺人事件」伊東秀子著より(その1)

「恵庭OL殺人事件」伊東秀子著より

著作では容疑者の大越美奈子さんは仮名で大妻になっている。大妻は出頭命令で千歳署に来ている。

[四月二十一日の取調べ状況」
(大妻の陳述書より)
 取調室に入ろうとした。いつもと同じ刑事がいたが、部屋の雰囲気も空気も全然違う。私と刑事の間に二つあった机の小さいほうがない。椅子に敷いてあった座布団がない。
「いいか、お前は容疑者としてここに取調べにきてるんだからな。勘違いするなよ。」
「何が『忘れていることがあるかも知れない』だよ。ふざけるなよ。忘れるわけないんだし、忘れてましたとか、勘違いしてましたとかそんなもん通用すると思うなよ」いきなり怒鳴られた。椅子に座った。
「今日はなぁ。お前の顔がよく見えるように机を一つどけておいたんだ。」
 目の前の机をガーッと私の方へ押して来ながら、机の上に身を乗り出して私の髪の毛を払いのけた。私は怖くて壁まで椅子を下げた。
 刑事は机の上に身を乗り出したまま、
「本当はお前がやったんじゃないのか。お前は忘れっぽいからなぁ。忘れているのかもしれないぞ。よ~く思い出してみろ。ん?どうだ?」
 そういいながら顔を近づけてきた。息がすごく臭かった。タバコを吸っている人の独特の臭い。今まであんな強烈な臭いは嗅いだことがなかった。怖さと臭さで気分が悪くて吐きそうになった。私の右側は壁だ、刑事は話しながら私の左側にしゃがみ込んで、私の顔をのぞき込み近づいてくる。何度ものぞき込む。椅子を横に並べて座ってきた。前にも後ろにも動けない。二人とも、一日目の時よりもっとすごい、威圧的な態度で迫ってくる。さっきは髪を触られた。また触られたどうしよう?今度は何をされるんだろう?不安、気持ち悪い、怖い。刑事に背を向けてしまった。刑事はまた前に来て机の上に身を乗り出してきた。
「ちゃんと前を向け。」
怖くて身体が動かなかった。震えが止まらなかった。


4年前に読んだ本を、もう一度読んでいる。日本の刑事裁判では99.9%が有罪になるのだという。警察と司法は証拠を捏造してでも有罪にする。気が弱くて精神的に安定しない大越さんは、警察署での取調べで恐怖のあまり気を失ってしまう。しかし、それは、彼女に待ち受けているあまりにも理不尽で過酷な人生の始まりであった。・・・・・次の動画は16年の刑期を満了して出所後まもない大越美奈子さんの記者会見である。https://www.youtube.com/watch?v=1WIhUATH_EI

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