夫婦

「もしもし、勝也ね~。お母さんをね、トイレに座らそうとしたら、床のタイルに落としてしまって、自分では持ち上げることができないんだよ。すぐに来てくれない。」

日中の仕事中にかかってきた父からの電話であった。

急いで家に帰ってみると、母がトイレの床に横たわっており、その側に何もできずに立ったままの父がいた。

夜間・深夜から午前中までは私が母の介護をし、昼から夜間までは父が母の介護をしていた頃のことである。その期間が約1年半続いていた。

本人も腰が痛いはずなのに、父は愚痴一つ言わずに母の介護に取り組んでいた。その姿は母の介護に全霊を傾けているかのような熱心さであった。

また、その前の母が入院中の半年間は、一日2回バスを乗り継いで病院に出向き、母の昼食と夕食の世話をしていた。(朝食は私が世話をしていた。)

あの頃、父は酒を断って、母の介護だけに生活のすべてを注いでいるかのようであった。その一事だけで、私は父を十分に尊敬していた。

良い悪いの、いろんな面を持ち合わせるのが人ではあるが、父がこの世を去って両親がいない今、子供たちにできることは、両親の良い思い出だけを心に留めておくことである。あれだけ熱心に母の介護をした父と、父にそれをさせた母、二人は良い夫婦であった。今、あの世で再会している。

コメント

タイトルとURLをコピーしました