お守り

「お父様には、他にも預金口座がございますが・・」と言って女性行員が一枚の書類をさし示す。金額は2,032円、睡眠口座と書かれている。

「これは今、国のお金になっているんですか」

女性行員の顔がゆがむ。

「はい、今は国庫に入っています」

父親の定期預金の相続手続きで、銀行に出向いたときのやり取りである。銀行に足を運ぶこと7回、戸籍謄本等を取るためヤンバルまで行くこと2回、遺産の相続には多くの煩雑な手続きと時間がかかる。

銀行も銀行である。遺産相続者には嫌になるほどの書類の提出と記入を課すのだが、国には文句も言わず簡単に人々の貯金を差し渡す。名義人か相続者に貯金の存在を連絡するのが当たり前の手順ではないか。

それはさて置き、この2千円はどうしよう。あることが頭に浮かぶ。思いがけないところから見つかった母のヘソクリ3万円、ベッドの母は手ずから私にくれた。あの3万円、2万円は使ってしまい残りの1万円を二重の封筒に入れていつも所持している。

父が残した2千円はこの封筒の中がよい。封筒の中には1万2千円、これをお守りとして持ち歩く。

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